I. 日本及び米国における居住形態とその課税関係

1. 日本の所得税法における居住形態の判定

海外支店等勤務のため、日本を出国した場合の居住形態の判定については、その海外支店等における勤務期間が契約等においてあらかじめ1年未満とされている場合を除き、出国の日の翌日から非居住者として取り扱われることとなります 。 また、海外勤務の期間があらかじめ、3ヶ月とか6ヶ月とかの短期間であり、出張程度の場合には、海外で勤務し国内に居住していない期間であっても、日本で居住者として取り扱われることとなります。 この海外での勤務期間が1年未満であるかどうかは、形式基準により判定されますので、例えば出国当初、2年間の勤務期間で出国し、会社もしくは自己の都合により実際の海外勤務が1年未満となったとしても、海外で勤務していた期間は、日本の所得税法上、非居住者として取り扱われることとなります。 尚、社命による研修、視察、留学等の目的で海外に出国する場合には、その研修等のために居住を要する期間は、その居住地に職業を有するものとされ、形式基準である1年基準を適用して、居住形態を判定することとなります。

2. 米国連邦所得税法における居住形態の判定

以下の2つの条件のいずれかを充たす外国籍者は、米国個人所得税法上、米国居住者と見なされます。


A. 「グリーン・カード」テスト

移民法により永住移民として身分を持った(つまりグリーン・カードを取得した)米国の合法的な永住居住者は、米国税制上居住者と見なされます。


B. 実質的滞在テスト(183日ルール)

外国籍者がその暦年に31日以上米国に滞在し、かつ次の算式に当てはまる場合には、同人はその暦年について滞在第1日目から居住者と見なされます。


該当年滞在日数 × 1 =
前年滞在日数 × 1/3 =
前々年滞在日数 × 1/6 =
≧ 183日


尚、上記183日ルールにより米国居住者と見なされる場合であっても、以下に揚げる外国籍者は、米国以外の国の雇用者から支払われる給与等について、米国での課税を免除される場合があります。
(1) 一定の条件を充たす留学生及びその家族
(2) 日米の会社間等による交換制度によって、米国に滞在する留学生、研修生、教師、研究者など一定の専門知識を有する者及びその家族、従って日本の技術者を米国関係会社へ1年程度派遣する場合に、日米両国の税負担も考慮して、Exchange Visitor 制度の導入の検討も必要となります。

3. 日米租税条約における短期滞在者の免税要件

日本の居住者が米国支店や米国子会社への出張、視察などを行う場合、その短期滞在について米国で課税されると、米国と日本との間に二重課税の問題が発生し、煩雑な納税や還付手続きが必要となるため、相互の人的交流の阻害要因ともなりかねません。 そこで、日米租税条約では、以下の要件すべてに該当する短期滞在者については、人的役務の提供地である米国での課税を免除することとされています。
A. 米国での滞在期間が滞在単位で183日を超えないこと。
B. その短期滞在者が、法人その他日本に恒久的施設を有する雇用者の使用人であること。
C. 短期滞在者に対する報酬が、米国に存する恒久的施設により負担されないこと。
1年程度の海外派遣であれば、日本からの出国日や日本への帰国日等を考慮することにより、日米両国の税負担を軽減できる場合が少なくありません。また、長期間の海外転勤の場合にも、給与等の支払い方法を検討することにより、会社にとっては給与コストを軽減でき、尚かつ従業員にも満足のいく給与形態を考えることができます。