米国などへの海外赴任が決まると、ワーキング・ビザの取得、仕事の引き継ぎ、引越し等様々な事柄に時間が取られますが、税務上、特に日米両国における税務費用節減のために、少なくとも以下の諸項目については検討されておく必要があるでしょう。
1. 賞与と支払いと年末調整
日本の居住者である給与所得者について、会社は12月の給与支給時に年末調整を行いますが、その居住者に他の所得がない限り、この年末調整によりその年度の所得税の課税関係は終了します。ところで、年の中途に給与所得者が海外支店等に転勤したことにより非居住者となった場合にどのような取扱いとなるでしょうか。日本の所得税基本通達190-1では、非居住者となった日を年末と見なして年末調整をする旨定めています。具体的には、出国日前の最終の給与支払いに年末調整を行っておくのが適切なのではないでしょうか。
ただここで注意を要するのは、賞与の取扱いです。通常、出国後に支払われる賞与の金額の一部又は全部は、日本の居住者期間の勤務に係わるものと思われますが、出国後に支払われる賞与のうち、日本源泉所得とみなされる部分については、非居住者に対する源泉所得税率の20.42%が適用され、会社は賞与支給時に所得税を源泉徴収することとされています。
従って、会社では当該賞与金額のうちの日本源泉所得相当額を、その給与所得者が、出国する前に清算した場合の増差税額と出国後に支給した場合の20.42%源泉所得額を比較し、いずれの支給方法が個人及び法人にとって有利となるかを検討する必要があります。
日本の税法上、国内源泉所得の計算については、当該賞与に係わる支給対象期間に基づき、出国日までの日数と出国後の日数により賞与金額を按分します。
尚、米国税法上、米国入国後に受領した賞与については、原則として全額米国においての課税の対象となりますので、この賞与の支払いについては、米国税額をも含めたところで検討されるべきでしょう。出国のタイミングや米国では給与の支給方法にもよりますが、一般的には、日本源泉所得の賞与について、出国前に清算される方が全体としての税負担が少なくなる場合が多いようです。
2. 日本における住民税課税の原則と留意事項
日本における住民税(都道府県民税及び市町村民税)は、退職所得以外の所得については、前年度の所得を基礎にその年の1月1日に住所を有する場所で課税されることとされています。従って、海外勤務により出国する場合など、いつ出国するかによって住民税の負担額が大きく異なってきます。
例えば、2023年12月中に出国し、2024年1月1日に日本に住所を有しない場合には、2023年度の所得に対する2024年度の住民税は課されないこととなりますが、2024年1月に出国した場合には、2024年度の住民税を非居住者となった後も支払わねばならなくなります。
従って、年末年始のいずれかの時期に出国を検討している場合には、その年の12月31日までに出国し、日本での住民税課税を回避されるのが得策と思われます。
3. 赴任期間と税務上の居住形態の検討
A. 米国での勤務期間が1年未満と予想される場合
米国での滞在は原則居住者として取り扱われるため、米国での実質的滞在テスト並びに日米租税条約における短期滞在者の免税要件を考慮し、米国での課税を避けられるよう、米国への入国日を検討しておく必要があるでしょう。
B. 米国滞在期間が長期間にわたると予想される場合
日本国内にある不動産、ゴルフ会員権等の処分と日本での住民税回避、日米両国の課税体系の差異を利用した相続・贈与税対策、米国における持ち家を購入することによる米国所得税対策並びに日本に帰国した時の所得税対策など、様々なタックス・プランニングが検討されるべきでしょう。
4. 日米社会保障協定
米国駐在が5年以内の場合、日米社会保障協定により、米国で社会保障税が免除されます。適用を受けるには、日本の社会保障事務所で適用証明書を取得して、米国の雇用者に提出します。